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第2話

2009.08.10 19:55  ショートストーリー

しなもんの短歌ストーリー第2話<花火>



どーん、という音で目が覚めた。
いつのまにかうたた寝をしていたらしい。

あたしは起き上がって、のびをした。
「今日は花火大会か」
誰もいない部屋でつぶやいた。

部屋の中が薄暗い。
壁をつたって、冷蔵庫の扉を開けた。
オレンジの光がぽっと灯る。

缶ビールを取り出すと、プルタブをひいてごくっと飲んだ。
うまい。カラダの中を、黄金の液体が満ちていく。

どーん。
花火の音は続いている。
あたしはベランダに出て、空を見あげた。
このおんぼろのアパートは、この季節、ベランダから花火がよく見える。
それは、安い家賃についてくる、思いがけずぜいたくなおまけだった。

どーん。
赤。
丸いかたちに火の粉が散る。
どーん。
続けて音。
黄。散る火の粉。
どーん。音。

去年の花火は、拓人と見たのだった。やっぱりこのベランダで。
あたしは、寝起きの頭で、ぼうっと思った。
あたしと拓人は、花火を見ながら、「光と音の関係」について話したのだった。

光の伝わる速さが秒速130万キロメートル。
音の伝わる速さが秒速350メートル(湿度、気温などによって異なる)。
ゆえに、花火が散ったあとで音が聞こえる。
どーん。

去年もあたしは缶ビール(エビス)を飲んでいて、
お酒がダメな拓人は、何か炭酸を飲んでいた。
赤や青やピンクの光を見て、拓人はおとぎの国のようだと言った。
空になにか新しい国ができたみたいだ、と。
どーん。

その国に、ふたりでなら行けるのではないかと話した。
なんてメルヘンな、と笑った。
ふたりで笑いながら抱き合った。
その人も今はどこかに行ってしまった。

いつからズレが生じたのだったか。
いやはじめからだったのだろう。
拓人が光の速さで進んでいるとするならば、あたしは音の速さで進んでいた。
キラキラと夜空にはじける光が拓人だとするならば、あたしはあとから鈍く反応する音だった。
いつも、どうしてもおいつけなかった。
どーん。

思い出してしまった。
忘れていたと思っていたのに。
あたしはいつのまにか、目をとじていた。
花火の音だけ、やまなかった。



エンゲージリングみたいな花火だと思った ふたりで見たものだから(遠藤しなもん)
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第1話

2009.08.10 19:52  ショートストーリー

しなもんの短歌ストーリー第1話<ストライプ>



横断歩道を見ると、目がくらむ感じがする。
マックの前のスクランブル交差点はとくにひどい。あたしはそこを通るたび、いつもくらくらとなってしまう。

とくに目がくらむ日は、美術室に行くことにしている。
絵の具の匂いが好きなんだ。
それに美術室には、せんせいがいる。

せんせいは、別にかっこいいわけじゃない。
30歳くらいなのかな。
はっきりいっておじさんだ。でもなんだか気になる存在。

せんせいは、理系の教師でもないのに、いつも白衣をはおっている。
よれよれの、絵の具で汚れた、パレットみたいな白衣。
せんせいはどんな絵を描くのだろう。ずいぶん前に、絵をやめたと聞いた。
あたしはせんせいの絵を見たことがない。

「もう少しで完成ですね」
描きかけの絵をイーゼルにセットすると、せんせいが声をかけてきた。
「もう少しで完成です」
並んで一緒にへたくそな絵を眺めた。

それは、シマウマがただ一頭、ぽつんと交差点に立っている絵だった。
このシマウマは、地球最後のシマウマなのだ。
未来には、もうサバンナなんてなくなってるだろうから。
仲間を失ったシマウマは、ひとり途方にくれているんだ。
あのマックの前の白黒の交差点で。

「シマウマが」とあたしは言った。
「シマウマが、どうしてシマシマなのか、せんせい知ってる?」
せんせいは、なぜか笑って、腕を組み、ウーンとうなった。

あたしは知っているよ。
あたしはせんせいに教えてあげた。

「シマウマは、自分の身を守るため、あのシマがあるんだよ。
シマウマが群れになるとね、シマの模様がえんえんと続いていって、ただのストライプのかたまりにしか見えなくなるの。
そうやって、集団で行動することで、ウマの形を消してしまうんだ」

あたしたちが制服を着るのも、実際そういうわけなんでしょう?
そう言うとせんせいは目を細めた。
生徒はみんな、ひとかたまりに見えるんでしょう?

「あたしが、どうしてあたしなのか、せんせい知ってる?」
「え」と言ったせんせいの、「え」のかたちのくちびるを奪ったら、絵の具のにおいがカラダに満ちた。

せんせいの絵が、見たいなあ。
急に、つよくそう思った。
くちびるを離したら、キャンバスのシマウマと目があってしまった。



右を見て左を見たら右を見ていつになったら渡れるだろう(遠藤しなもん)

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